4日前、このブログで$DRAMの保有理由を総点検した。
結論は「5つのシグナルすべて未発動。引き続き握る」だった。
その直後の7月17日(金)、6月下旬から続いていた半導体株の下落がさらに加速した(Reuters)。
先に書いておくと、動揺はしていない。株価の急落そのものは売る理由にならず、売る理由になるのは5つのシグナルのどれかが発動した時だけ、と決めてあるからだ。ただし、致命的なニュースが一つ出れば保有理由は一日で崩れる。だから今日は、総点検以降に出た4つの下げ材料を、1つずつシグナルと照合していく。
正直、6月からのメモリ株の乱高下は想像以上で、いい材料が見えていても、ここまで短期では乱れるのかと驚いている。だからこそ、できるだけ一次情報の事実に基づいて客観的に書く。短期的なノイズに惑わされるのではなく、シグナルと照合していく過程を参考にしていただければと思う。
なお、今週は需要側でも大きな動きがあった(NVIDIAファンCEO来日と「ジャパンAI」関連の発表群)。下げ材料と一緒に扱うと長くなりすぎるので、プラス側の材料は次回の記事でまとめる。
先に進む前に、前回のおさらいとして、$DRAMの3つの保有理由と5つの売りシグナルの対応図を再掲しておく。本記事の「シグナル①〜⑤」はこの図を指している。
この記事の内容
$DRAMホルダーとして、今週いちばん向き合うべき材料はこれだと考えている。CXMTはシグナル⑤(中国勢がNVIDIA認証水準に接近)で名指ししている監視対象そのものだからだ。
まず事実。中国最大手のDRAMメーカーCXMT(世界4位・2025年シェア約7.7%)が、7月27日に上海の科創板へ上場予定とReutersが報じた。当初計画は295億元(約43.5億ドル)の調達だったが、直近の報道では少なくとも579億元(約86億ドル)、オーバーアロットメント行使で最大666億元まで拡大する可能性がある。今年アジア最大のIPOで、中国A株の半導体案件としては2020年のSMIC以来の大型。調達資金の使途は生産能力の拡大と技術更新とされる。
これが売り材料とされた理屈はシンプルで、「世界4位が数十億ドルの増産資金を手にする=将来の供給増=メモリ価格の下落要因」という連想だ。日本のメディアでも「需給悪化懸念」として報じられた(テレビ東京WBS)。
ただ、この連想と、シグナル⑤が見ている現実の間には、まだ距離がある。総点検で整理した通り、CXMTがNVIDIA水準のHBMに到達するには複数の障壁がある。
装置面では、HBM製造に不可欠な装置がASML・Applied Materials・東京エレクトロンなど少数の対米協調国に集中し、輸出規制の対象になっている(第三国経由も事実上の許可制)。技術面では、CXMTが目指しているのは一世代前のHBM3の量産で、当初の「2026年内」目標は後ろ倒しが報じられている。現行主流のHBM3E、最新のHBM4はさらにその先だ。
今回のIPOで解決するのは、この図のうち「資金」だけだ。装置の調達制限と歩留まりは、お金を積んでも解決できない。
ただし、長期の懸念として正直に書いておくべきことが2つある。
1つは、障壁の外側にある汎用DRAM市場では、この資金がそのまま効くことだ。
HBMと違い、旧世代の汎用DRAMは規制対象外の既存装置で増産できる。そして足元の3社の記録的な利益は、この汎用品の価格急騰にも支えられている。実質利益率では汎用品がHBMを上回るとの推計まであり、SKハイニックスがHBM4の拡大ペースを緩めて汎用DRAMに資源を再配分すると報じられたほどだ。CXMTの資金は、まさにこの市場を直撃する。工場や装置の立ち上げには年単位の時間がかかるとはいえ、供給増は段階的に、しかし着実に来る前提で見ておく。$DRAMの中身がHBMの構造需要と汎用品の高値のどちらにどれだけ依存しているかは、今後の決算で見ていくべき論点だと思っている。
もう1つは、規制環境が流動的なことだ。
今週は米議会からCXMTのエンティティリスト追加を求める超党派書簡が出た一方で、AppleがCXMT製メモリの調達に向けて動いているとの報道もある。締める圧力と緩める圧力が同時にかかっており、リストの行方がCXMTの技術的脅威と商業的脅威の両方の蛇口になっている。商務省の審査の行方は、シグナル⑤と合わせて監視を続ける。
金曜の米半導体安を報じる記事で、Reuters、CNBC、Bloombergなど複数の主要メディアが材料として挙げたのがこれだ。中国Moonshot AIが発表した2.8兆パラメータのAIモデルで、公開されているオープンウェイトモデルとしては史上最大。フロントエンド開発の評価で米国最上位モデルを抑えて1位を取った。
売られた理屈は、2025年1月の記憶だ。DeepSeekが、当時OpenAIの最上位推論モデルだったo1の約27分の1というAPI価格で同等の推論性能を出した時、「AIに巨額のGPU投資は要らないのでは」という連想でNVIDIAは1日で約5,890億ドルの時価総額を失った。今回も「中国が追いついた→GPU投資の前提が揺らぐ」という同じ連想が報じられている。
でも数字を見ると、今回は構造が違う。
DeepSeekが起こしたのは価格破壊だったが、K3で起きているのは価格の接近だ。「安いAIが出た」という前提そのものが、今回は成立していない。
次に、「安く作れた」という話の出所。K3の学習コストやGPU数の一次データは公開されていない。Moonshotは技術詳細を後日公開するとしている段階で、つまり売りの根拠になった「効率革命」は、現時点では未確認の話だ。
一方で、確認できるのは逆方向の事実だ。K3は最高性能版の運用に数百万ドル規模のGPUクラスタが必要とされ、4bit量子化してもモデルの重みだけで約1.4TBのメモリを要する。しかもK3自身、NVIDIAの輸出仕様チップH800で訓練されたと報じられており、技術ブログのベンチマークもNVIDIA H200上で実施されている。中国AIの躍進は、少なくとも現時点ではNVIDIAのシリコンと大容量メモリの上で起きている。ウェイトが公開されれば、世界中でこのモデルを動かすための計算資源とメモリの需要が生まれる。
長期で見ておくべきは、中国モデルの追い上げが巡り巡ってシグナル①に波及する経路だと思っている。
今週のAI投資への懐疑論も、根っこはここにある。この経路が実際に動くかどうかは、ハイパースケーラー自身の決算で確認するしかない。
韓国金融当局が7月16日、単一銘柄レバレッジETFの規制強化を決定した。サムスン電子・SKハイニックス連動のレバ型ETFへの資金集中と強制決済(7月最初の10営業日で約4,258億ウォンと報道)を受けた措置だ。新規上場の一時停止は即時、最低預託金の引き上げ(1,000万→3,000万ウォン)は8月5日から、売買単位の引き上げ(1口→20口)は11月から実施される(日経)。
メモリの需要・供給・技術には触れないのでシグナルとは無関係だが、自分はこれを中長期では改善方向のニュースと見ている。レバレッジマネーの膨張は、KOSPIのサーキットブレーカーを含む6月からの乱高下の増幅装置だった。株価反転時に強制決済が売りを呼び、さらに強制決済を誘発する連鎖だ。規制でこの構造が抑えられれば、メモリ株の値動きはファンダメンタルズをより素直に反映するようになる。
ただし売り圧力は、施行日を待たずに段階的に出る。
株価反転→追証→強制決済→さらに下落、という巻き戻しの連鎖 KOSPIのサーキットブレーカーはこの段階
規制で将来の資金流入減少が見えたため、先回りの売り 発表翌日には香港上場の韓国半導体ETFが軒並み6%超下落
参入障壁が上がる→新規マネーの流入が減る→ETF残高が縮小する→運用会社が残高に合わせて原資産(サムスン・SKハイニックス株)を売る、という緩やかな圧力
今週の下げの一部は第2段階だと見ている。短期は痛いが、構造としては健全化に向かう——そういう位置づけで記録しておく。
$DRAMの構成銘柄であるキオクシアが7月17日にストップ安となった。テキサス州の連邦地裁陪審が16日、米Viasat社のフラッシュメモリー関連特許の侵害を認め、約371億円の賠償評決を下したためだ。
このニュースをどう見るか。$DRAMホルダーとしては、現時点では株価の反応ほど重大な話ではないと見ている。理由は3つ。①争点はNAND関連の誤り訂正技術の特許で、DRAMやHBMの需給・寡占構造に関わる話ではない。②金額は確定ではなく、キオクシアは「到底容認できない」として控訴を含む法的手段を講じる方針。③約371億円は、メモリ好況下の同社の収益規模に対して経営を揺るがす水準とは言い難く、ストップ安という反応には、6月から続く地合いの弱さが増幅として効いていると見ている。
ただし1点、尾を引く可能性は残る。報道によればこの賠償額は2026年3月末までの過去分の実施料にあたり、該当技術を今後も使い続ける場合、将来分のライセンス交渉や追加の法的手続きが別途必要になる可能性がある。単発の支払いで終わるかどうかは控訴の行方と合わせて確認していく。
このほか、米国が韓国半導体メーカーの「超過利益」の分配を求めたとの報道(Korea Times)もあったが、関係者ソースの観測報道で、要求の形も未確定。事実が動いたら改めて取り上げる。
最後に、$DRAM自体の金曜の値動きを記録しておく。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 寄り付き | 前日終値比 約5%安 |
| 場中の安値 | 48.63ドル(前日終値比-7.1%) |
| 終値 | 52.72ドル(前日終値比+0.7%) |
| 出来高 | 約1.35億口(直近平均 約4,800万口の約2.8倍) |
場中に7%下げた後、同じ日のうちにプラス圏まで戻して引けた。売り一色で終わった日ではなかった、というのが値動きから確認できる事実だ。ただし底打ちと読むことはできない。上場来高値(ザラ場ベース81.34ドル)からは約35%下の水準にあり、レバレッジの巻き戻しのような需給要因が続く間は、調整が続く可能性もある。
・7/22 Alphabet決算(シグナル①:CapExガイダンスの確認はここから始まる)
・7/27 CXMT上海上場と増産計画の開示(シグナル⑤の監視ポイント)
・7/27 Kimi K3のウェイト公開(蒸留疑惑の第三者検証が可能に)
・7/29 SK Hynix決算(シグナル③)
・7/29 Microsoft・Meta決算、7/30 Amazon決算(シグナル①)
・8/5 韓国レバETF規制の施行(ETF残高と資金流入の変化を確認)
※決算日は各社の発表により変更される場合がある
今週の4つの下げ材料を、1つずつシグナルと照合した。
| 材料 | 判定 |
|---|---|
| CXMT上場 | シグナル⑤発動なし。IPOで解決するのは資金だけで、装置と技術の障壁は残る |
| Kimi K3 | シグナル②④に触れる事実なし。売りの根拠になった「効率革命」は未確認の話 |
| 韓国レバETF規制 | シグナルと無関係。短期は痛いが、構造は健全化に向かう |
| キオクシア評決 | シグナルと無関係。$DRAMの保有理由には、株価の反応ほど重大ではないと見ている |
発動を確認できたシグナルはゼロ。4日前と比べて変わったのは株価とセンチメントで、シグナルの判定は一つも変わっていない。
次回は、同じ週に需要側で起きていたこと——NVIDIAファンCEOの来日と「ジャパンAI」関連の発表群——をまとめる。下げ材料だけ見ていると視野が偏るので、プラス側も同じ基準で確認していく。


コメント