前回の記事では、半導体株の下落が加速した週の下げ材料4つを、5つの売りシグナルと照合した。
結論は「シグナル発動ゼロ。引き続き握る」。ただ、あの記事は下げ材料だけを扱った。実は同じ週、需要側では真逆の方向のニュースも出ていた。下げ材料だけ見ていると視野が偏るので、今日はプラス側の材料も同じ基準で確認していく。
先に進む前に、前回のおさらいとして、$DRAMの3つの保有理由と5つの売りシグナルの対応図を再掲しておく。今回の記事で照合するのは、主に保有理由②とシグナル④だ。
この記事の内容
NVIDIAのファンCEOが7月15-16日に来日し、発表が相次いだ。まず事実を並べる。
- ファンCEOは「国家の知能は国内で育成、強化、発展させなければならない。国内で構築しなければならない」と述べ、日本が自ら開発するAI=「ジャパンAI」の幕開けを予告した(日経)
- 国家レベルのフィジカルAI向け「Vera Rubin AIファクトリー」の立ち上げを発表(NVIDIAプレスリリース)
- ファナック、富士通、安川電機、日立、ソニー、ソフトバンクなど22社が、ロボット向け世界モデル開発の「Cosmos Coalition」に参加(CNET Japan)
- 富士通が川崎重工・ファナック・安川電機と、フィジカルAI基盤で協業を発表
- エッジ・ロボット向け「Jetson Thor」シリーズの新モデルを発表
- 次世代チップVera Rubinについて、延期観測を否定し「予定通り」と説明(Bloomberg)
背景には、経産省のAIロボティクス戦略がある。2040年に世界のAIロボティクス市場の30%超(推定1,330億ドル規模)を日本が獲得するという目標だ。国家戦略と、NVIDIAと、日本の製造業大手22社。この3者が同じ方向を向いた発表群が、株が売られていたのと同じ週に出ていた。
$DRAMの保有理由②は「エージェント/エッジ/フィジカルAIの第二波は、まだ市場に織り込まれていない」だ。売りシグナル④はその逆、「第二波の発展の鈍化」を監視している。
今回の発表群をこの枠組みで見ると、フィジカルAIが「構想」から「国家戦略+企業連合」の段階に進んだ事例にあたる。特に注目しているのは顔ぶれだ。Cosmos Coalitionの22社にはファナック・安川電機・川崎重工といった産業ロボットの世界大手が並ぶ。ロボットの世界シェア上位を持つ日本の製造業が、NVIDIAの世界モデル(ロボットの頭脳にあたるAI)陣営に入った。フィジカルAIの主戦場が工場や現場だとすれば、これはその現場を持つ企業群の参加ということになる。
ただし、発表は計画であって、売上ではない。Vera RubinファクトリーもCosmos Coalitionも、実需(GPUとメモリの発注)になるまでには時間差がある。「裏付けが増えた」と「実需が増えた」は区別して見ていく。
「ジャパンAI」の土台にあるのは、ファンCEOが各国で説いてきた「ソブリンAI(AI主権)」という考え方だ。国家の知能は自国で持つべきだ、という主張。これをどう見るか、自分は3つのレンズで整理している。
NVIDIAの売上は米ハイパースケーラー数社への集中が指摘されており、これは自分がシグナル①(CapEx下方修正)を監視項目の筆頭に置いている理由でもある。ソブリンAIは、ハイパースケーラーのCapEx判断とは別の財布——国家予算——を開拓する動きだ。ソブリンAI市場は2030年に5,000億ドル規模になるとの予測もある。国家プロジェクトがGPUを買えば、そこに載るHBMも一緒に売れる。需要源の分散は、NVIDIAホルダーとしても、$DRAMホルダーとしてもリスク低減の方向に働く。
前回記事で扱ったKimi K3のような中国のオープンモデルは、無料で使えて性能も高い。当然、それを基盤に採用するスタートアップは日本にも増えていて、経産省の幹部はこの状況に危機感を示していた。無料モデルの中身や学習データは提供元が握っており、自国のAIの土台を他国に依存することになるからだ。つまり中国モデルが優秀であるほど依存への危機感は強まり、各国が「国産AI」に国費を投じる動機も強まる。K3の躍進は半導体株の下げ材料になった一方で、ソブリンAI投資という需要拡大のきっかけにもなっている。同じ一つのニュースが、売り材料と買い材料の両方を生んでいる構図だ。
「ソブリンAI」はファンCEOが2023年頃から各国政府に売り込んできたセールストークでもある。よく考えると、AI主権を確立するためにNVIDIAのGPUを買うわけで、モデルの主権は得られてもシリコンの主権はNVIDIAに握られたままだ。「構造的に永続する需要」と無邪気に信じるのではなく、「国家予算というサイクルの長い需要」くらいの距離感で見ておく。
$DRAMホルダーとして、今週一番注目したのは、AI由来のメモリ需要がデータセンター向けのHBMから広がりを見せていることだ。その広がりは、第二波の中身(エージェント/エッジ/フィジカルAI)とそれぞれ結びついている。3つの方向に整理する。
1つ目はデータセンター側。これまで通りの中心地で、Vera Rubin AIファクトリーのような国家級インフラは、HBMの塊であるGPUの発注そのものだ。
2つ目はエッジ側で、裏付けはフィジカルAIの国家戦略だ。Jetson Thorのようなロボット・エッジ機器は、HBMではなく低消費電力のメモリ(LPDDR系)を積む。②で見た経産省の戦略とCosmos Coalitionは、メモリの視点で言えばこの領域の需要の裏付けにあたる。フィジカルAIが現場に広がるほど、この裾野の需要が積み上がる。
3つ目はストレージ側で、裏付けはエージェントAIだ。エージェントAIは長時間の作業の文脈(コンテキスト)を保持し続ける必要があり、毎回GPUで再計算するとコストがかさむ。NVIDIAはこれをフラッシュ(NAND)に保存して再利用する「CMX」という構想で解決しようとしており、$DRAM構成銘柄のキオクシアは、この流れの中でNVIDIAと「Super High IOPS SSD」を共同開発中だ。今年3月のGTC 2026ではStorage-Next対応の「GPシリーズ」を発表済みで、評価サンプルは2026年末までに出荷予定。「AIメモリ需要=HBM・DRAM」だった構図に、NANDが加わる可能性が出てきた。
データセンターのHBMから、エッジのLPDDR、ストレージのNANDへ。メモリの全域にAI由来の需要が広がっていくシナリオが、この一週間で一段具体的になったと見ている。
ただし、エッジやNANDの単価・利益率はHBMより大幅に低く、この広がりが構成銘柄の利益に効くのは、数量がまとまってからの話だ。現時点では「需要の方向」の確認であって、「利益の柱」の話ではない。
最後に、数字にならない話を一つ。ファンCEOは7月15日の夜、JR神田駅近くのやきとん居酒屋で、日本の取引先幹部らと約2時間懇談した(日経)。目撃情報として名前が挙がったのは、キオクシア、味の素、信越化学、日東紡の各トップ。
この顔ぶれが面白い。信越化学はシリコンウェハ、味の素は半導体パッケージ用の絶縁フィルム(ABF)、日東紡は基板材料のガラスクロス、キオクシアはNAND。派手なAI企業ではなく、GPUを物理的に作るために欠かせない素材・部材の企業ばかりだ。NVIDIAが今、誰との関係を大事にしているか。会食の席次は、決算資料には載らない情報だと思う。
そして④で触れたキオクシアの太田社長には、この会食の後とみられる場面で、メディアの直撃取材が入っていた(ダイヤモンド・オンラインの動画)。「CMXへの期待は?」と聞かれた瞬間に思わず吹き出し、それでもAIが牽引しているとは明言。SSDへの期待を重ねて聞かれると、笑いながら「それは言えない」という趣旨の返答だった。
笑いの真意は本人にしか分からない。ただ、私の目にはまんざらでもない表情に見えた、とだけ記録しておく。共同開発の当事者の「言えない」の中身は、決算と2026年末の評価サンプル出荷で答え合わせできる。
株価が下を向いていた週、需要側では「第二波」の裏付けが積み上がっていた。要点は以下の通り。
- ジャパンAI関連の発表群は、シグナル④と逆方向。保有理由②の裏付けが国家戦略レベルで増えた
- ソブリンAIは「第三の需要柱」になりうる一方、セールストークの面もある。距離感を持って見る
- メモリ需要はHBM→エッジ→NANDへ広がる方向。$DRAMのテーゼにとって追い風
- ただし発表は計画であって売上ではない。実需への転換は、これからの決算で確認する
確認ポイントは前回記事と同じだ。7/22のAlphabetから始まるハイパースケーラー決算、7/27のCXMT上場とKimi K3のウェイト公開、7/29のSK Hynix決算。下げ材料とプラス材料の両方を見た上で、判断は変わらない。


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