直近1ヶ月の米国株、かなり対照的な値動きになっている。
メモリ企業は業績もガイダンスも絶好調なのに株価は大きく売られる一方で、AI投資を抑えてキャッシュフローを守ってきたAppleが急騰している。
今日はこの現象について、自分がどう見ているかを整理しておきたい。
直近1ヶ月のパフォーマンス比較
まずは数字から。
ポイントは、メモリ企業はどんなに好決算・強いガイダンスを出しても評価されず、投資を抑えてキャッシュフローを守っている企業が買われるという点。業績が悪いから売られているわけではない、というのが今回一番引っかかったところだった。
これが今のマーケット全体に流れている「キャッシュフロー偏重」の空気をそのまま表している形だと思う。
なぜこんなに絶好調のメモリ株が売られているのか
自分なりに整理すると、原因は大きく3つあると見ている。
① 中国勢の台頭への警戒
これには2つの側面があると思っている。ひとつはCXMTなど中国メモリメーカーの技術キャッチアップ。報じられるたびに「いずれシェアを奪われるのでは」という不安が株価の重荷になる。
もうひとつはDeepSeekやKimi K3のような中国製AIモデルの台頭。「低コストでも高性能なAIが作れるなら、莫大なCapExをかけてメモリ・GPUを積み上げる今のやり方は本当に必要なのか」という疑念を投資家に抱かせ、それが巡り巡ってメモリ需要への懐疑にもつながっている。
② ハイパースケーラーのCapEx縮小懸念
GoogleやMicrosoftのような巨大IT企業のキャッシュフロー悪化が意識されると、「投資が続かなければメモリの発注も減るのでは」という連想が働き、供給側であるメモリ企業まで売られてしまう。
③ メモリサイクルへの根強い懐疑心
メモリ業界は歴史的に激しい好不況の波を繰り返してきたため、どれだけ好決算が続いても「次は下がるサイクルが来るのでは」という警戒が常につきまとう。
実際、この②を象徴する動きが直近であった。
「売上さえ伸びていれば設備投資は評価される」という、これまでの暗黙の了解が崩れ始めているとBloombergは報じている。
つまりメモリ企業自身の業績が悪いのではなく、「投資する側」であるハイパースケーラーへの警戒感が、「供給する側」であるメモリ企業にまで波及している、というのが今回の下落の実態に近いと考えている。
でも、この流れは一時的だと思う理由
とはいえ自分は、このAppleへの資金逃避は「構造の転換」ではなく「一時的な資金の逃避先」に過ぎないと見ている。
理由を5つ、順番に整理する。
① AI投資はアメリカにとって降りられない国家的必須事項
一番の根っこはここだと思っている。
仮にアメリカがAI投資を緩めても、中国は絶対にやめない。どんなに赤字だろうと、国のお金を使って突き進んでくる相手だからだ。
もしそこでアメリカが降りれば、世界経済における中国の存在感が増し、アメリカの存在感は相対的に薄れていく。これはアメリカにとって到底受け入れられないシナリオのはずで、「降りる」という選択肢自体が構造的に存在しないと考えている。
② HBMを作れるのは世界3社のみ
現状、NVIDIA基準のHBMを製造できるのはSK Hynix・Micron・Samsungの3社だけ。
仮に中国が技術的に追いついてきたとしても、地政学的な緊張関係の中で中国メモリへの依存はアメリカにとって安全保障上のリスクになる。積極的には使いづらい構造がある。
③ AI需要が続く限り、3社のメモリが買われ続ける構造
①②を踏まえると、AI開発競争が続く限り、この3社が供給するメモリへの需要はなくならない、というのが自分の見立て。
ここで①で触れた「DeepSeekやKimi K3のような低コストAIモデルが台頭すれば、莫大な投資は要らなくなるのでは」という懸念にも触れておきたい。
自分はこれには経済学的な反例があると考えている。Jevonsのパラドックスと呼ばれるもので、あるものが効率化・低コスト化すると、かえって利用が広がり総需要は増える、という現象だ。AIモデルが安く作れるようになるほど、企業は「じゃあうちも」とより多くの用途にAIを使い始める。結果としてAI活用の裾野が広がり、メモリ・GPU需要はむしろ拡大する可能性がある。
低コスト化=投資縮小、と単純に結びつけるのは早計だと自分は見ている。
④ ハイパースケーラーの設備投資縮小懸念について
一番の懸念材料は、GoogleやMicrosoftのようなハイパースケーラーがCapExを縮小するのではないか、という点だと思う。
ただ仮に一部の企業が投資を続けられなくなったとしても、全社が同時に投資をやめるのは、AI競争で負けられないアメリカにとって大きなリスク。
むしろ競争相手が減れば、残った企業はメモリを今より買いやすくなる。いよいよとなれば、国としてのバックアップも十分考えられる話だと思っている。
⑤ 各社CEOが「メモリは全然足りていない」と証言
メモリ業界には「スーパーサイクル」論争――今回は従来の景気循環的な変動から本当に脱却したのか、という議論が根強くある。
ただこれについても、各社のCEOが口を揃えて「メモリは全然足りていない」と証言している点は無視できない。需要が本物である傍証だと考えている。
なのでAppleへの資金逃避は「構造の転換」ではなく「一時的な資金の逃避先」に過ぎないと見ている。
皮肉なのは、Apple自身がメモリ不足に苦しんでいること
そして最近、AppleとMicronの対立が深まっているというニュースが出てきた。
Appleは、米国外で販売するデバイスに中国CXMT・YMTCのメモリチップを使う許可をトランプ政権に求めているという。狙いは世界的なメモリ不足の緩和とコスト抑制。一方でMicronはこれに猛反発し、阻止に向けたロビー活動を展開。米国内製造への2,500億ドル投資を掲げて対抗している。
さらに、頼みの綱である中国メモリも「安く調達できる」とは限らなそうだ。CXMTはHuaweiに対してすら価格を引き上げ、値下げ要求を拒否していると報じられている。メモリ価格全体の急騰でCXMT自身も前年の大幅赤字から黒字転換しており、値下げする動機はむしろ薄れている。増産分の大半も中国国内需要に吸収される見通しで、世界的な品薄・価格の緩和にはつながりにくいとの分析もある。
そしてもう一点、Appleの立場が難しいと思うのはここ。AI投資をしていない分、メモリ高騰というデメリットは他社同様にまともに受ける一方、もしAI投資が実を結んだ場合のメリットは間接的にしか得られないという非対称な構造になっている。攻めている企業はコストもリターンも両方自分で背負っているのに対し、Appleはコストだけ引き受けてリターンは薄い、という状況になりかねない。
規制リスクを負ってまで中国メモリに接近しても価格面の旨味が薄く、しかもAI投資の果実も取りに行けていないとなれば、窮地に立たされているのはむしろApple側なのではないか、というのが自分の見方。
今回の構造を図にすると
まとめ
今回の相場は、自分には「資金のシーソー」のように見えている。
CapExを増やす企業は嫌気され、抑える企業が評価される。ただそれは投資家心理・評価軸の一時的な変化であって、AI・メモリを取り巻く構造そのものが変わったわけではない、というのが今の自分のスタンスだ。
むしろAppleが直面しているメモリ調達の苦しさや、AI投資成功時のリターンを取りに行けていない構造を見ると、「積極的にAI投資をしていなくて正解だった」という評価が今後も続くとは限らないと思っている。
このテーマは今後の決算・ニュース次第で状況が変わり得るので、引き続き5つのシグナルをベースに定点観測していきたい。
あくまでも個人の見解です。
Stay the Course.👊


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